雑誌『P2P』について

所長あいさつ

南極大陸の氷が溶ける。心配ごとはさまざまだ。

これを物理的な「海面上昇」の兆候とすれば、地球温暖化を阻止すべく環境保護活動のステートメントを導くことができる。 または比喩的な「アイスブレイク」の危機とすれば、軍事的な緊張を解くべく平和維持のアクションが導かれる。 あるいは夢想的な「太古の封印」の解放とすれば、神話的な厄災を防ぐべくSFめいたフィクションが導かれる。

人類が南極点へ到達してから、100年以上が経過した。 「国際地球観測年」を契機として作成・発効された南極条約により、南極大陸においては一切の戦闘行為と、領土主張が凍結された。以来この地は、一方では科学者たちによる国際的な協働のもと観測の対象とされ、他方では人類文明あるいは地球の代表地、つまり「平和」や「人類以前/以後」の世界を象徴するジオラマとして扱われてきた。 極大なタイムスケールでわれわれ人類の文化・文明を相対化し、地球の来たるところと行く末を知らせる南極大陸は、現実の国際政治から虚構の物語にいたるまで、世界の方針を占う場所として利用されている。

つまり、南極が有するもっとも巨大な資源とは「イメージ」である。 しかし極地のイメージを利用して作成されたさまざまな世界理解は、数多くの参照とその広範な影響にもかかわらず、人文的・思想的な関心の外におかれている。そして極地をめぐる関心のほとんどもまた、科学的あるいは政治学的なものに占められているように思える。

「極セカイ研究所」は以上のような問題意識のうえで、極地をめぐる批評的な航路を試すために生まれました。批評誌『P2P』の創刊もまた、そのプロジェクトの一環です。 氷の下には、どんなイメージが、「セカイ」が埋まっているのか——。 乗船受付が始まります。
(黒嵜想)

P2P(ピーツーピー) 第〇号

A5判 136頁 価格:2,000円(税抜)
通販ページ:https://booth.pm/ja/items/5616657 

取扱書店:
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目次
「南極の人類学」のスケッチ|森下翔 
 南極で料理をする際の心得|北田克治            
 極論|黒嵜想             
 極北の時空|大石侑香            
 動中の動、新しき道|アレクサンドル・ポノマリョフ インタビュー
 南極ビエンナーレの未来|鴻野わか菜       

発行     極セカイ研究所
発行日    2024年3月31日
編集     極セカイ研究所(黒嵜想、沢田朔) 
編集協力   長谷川新、福尾匠、藤村南帆、布施琳太郎、米澤柊
デザイン   中家寿之
アートワーク 梅沢和木
協力     山本麻友美
助成     おおさか創造千島財団

寄稿者プロフィール

大石侑香 OISHI Yuka 1982年生。神戸大学大学院国際文化学研究科准教授。博士(社会人類学)。シベリア先住民を対象にトナカイ牧畜や漁撈、狩猟採集といった生業活動、毛皮のサプライチェーン、北極環境変化と社会について研究している。主著は『シベリア森林の民族誌:漁撈牧畜複合論』昭和堂(2023年)。

北田克治 KITADA Katsuji 大阪住吉区出身。株式会社北田代表取締役。「京料理 美濃吉」、「旅館 吉川」での修行を経て、現在国際日本文化研究センター内レストラン「赤おに」店長兼料理長。1997年7月〜99年3月の第38次、2003年7月〜05年3月の第45次日本南極地域観測隊調理担当越冬隊として国立極地研究所へ出向した。

黒嵜想 KUROSAKI Sou 1988年生。批評家。極セカイ研究所所長。批評誌『アーギュメンツ』(2015〜2018)での連載・編集をきっかけとして活動開始。音声と南極を中心的な関心とし、本誌『P2P』編集ならびに「極論」のほか、仏教音楽「声明」に関する連載「声をかく」(ウェブメディア「ちえうみ」)などがある。

鴻野わか菜 KOUNO Wakana 1973年生。早稲田大学教育・総合科学学術院教授。PhD。ロシア東欧美術・文学。「カバコフの夢」等、展覧会の企画にも関わる。共編著に『カバコフの夢』(現代企画室、2021)、訳書にマリーナ・モスクヴィナ『ぼくの犬はジャズが好き』(小学館、2022)等。近刊に『生きのびるためのアートーー現代ロシア美術』(五柳書院)。  

沢田朔 SAWADA Saku 1991年生。アート・マネージャー。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。京都市の芸術家支援団体に奉職する傍ら、フリーランスのアートマネージャーとして、アートスペース「浄土複合」「ニハ」の立ち上げに携わる。「国際人類観測年(2021)」、批評誌『羅』発行(2023)にも協力。2023年より京都精華大学非常勤講師。

森下翔 MORISHITA Sho 文化人類学者(科学技術の人類学)。主な論文に『「融合」としての認識=存在論:「非-自然主義的」な科学実践を構成する「観測データへの不信」と「ア・プリオリなデータ」の概念』(『文化人類学』85-1)、『不可視の世界を畳み込む : 固体地球物理学の実践における「観測」と「モデリング」』(文化人類学78-4)。

アレクサンドル・ポノマリョフ Alexander Ponomarev 1957年ドニエプロペトロフスク(旧ソ連)生。オリョール美術学校卒業後、航海士の経験を経て、1982年から海、船をテーマとする作品を展開する。2017年にはコミッショナーとして第1回南極ビエンナーレを実施した。ヴェネツィア・ビエンナーレ、ポンピドゥー・センター、ルーブル美術館等、各国の美術館で展示・プロジェクトを行う。


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『P2P』は「極セカイ研究所」がその成果を公開するために発行する不定期刊行物であり、取次等を介した取引は行っておりません。ご不便をおかけいたしますが、直取引にてご対応させていただきますので、お気軽にお問い合わせください。

問い合わせ先:極セカイ研究所 総務(担当:沢田)

MAIL:info@sekai-ken.org

FAQ.

Q. 個人向け通販はできますか?
A. 極セカイ研究所公式BOOTHからお求めいただけます。

Q. 書店ではない(喫茶店、雑貨店など)のですが、P2Pを仕入れて販売することは可能ですか?
A. 書店以外のお店、施設でも大歓迎です! お気軽にご相談ください。